杉村敏之-雑記

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爪と月。

今日は目を覚ますとすぐに、部屋で爪を切った。
ぼくは比較的よく爪を切る。
少しでも伸びてくると、普段キーボードを叩く仕事をしているので結構気になるのだ。
そして、これはいつもいい気分転換にもなる。
切り立ての爪で弾くキーボードの感触はおろしたてのスニーカーで街を歩くのにも似ていて、心が弾む。
楽しいな、気持ちいいなと思っているうちに取り組むのが億劫だった作業でも、気がつくと苦もなく片付けていることがある。
昼間は家の大掃除を手伝いながら「坂の上の雲」の再放送を見て、阿部寛の凜とした佇まいにひとしきり感心したあと、散髪に出かけた。
爪を切ったり、部屋の片付けをしたり、散髪したりと、迫る年の瀬に追い立てられるようにして、今日は一日忙しなく立ち回って、なにやらにわかに年末らしい。
床屋の戸を開けると、すでにもう夜で、細い三日月が低い空に浮かんでいた。
爪切りの最中、どこかに飛ばしてしまいしばらく探して見つからなかった自分の爪は、遙かかなたお空に引っかかっていたよのさと一人無意味にピノコの口振りを真似て笑った。

mikaduki