杉村敏之-雑記

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盆の入りに合わせる手が引き寄せたのは夏。

仕事を終えて家に帰ると、勝手口脇の作業台に迎え火の支度がしてあった。
馬と牛をどちらを焚くか地域によって異なると耳にしたことがあるが、我が家は牛を迎え火に焚く。これは関西で育った母の流儀である。そう言えば朝、最寄りの駅まで向かう道すがら、どうも香の匂いが気になったのは、今日が盆の入りだったからなのだと合点がいった。信心など微塵もないが、こういった暦に寄り添った行事は子どもの時分からなんだかしっかりとやりたい気分で、その点年寄りが家にいるとなにかと頼もしい。台所で遅い夕食をこしらえる母と嫁の忙しない様子を見ながら自分はゆっくりと燭台に蝋燭をたて、二つに折った線香に火をつける。鐘をチンチンと2回ならして手を合わせる。父よ。今日、アイスを食べたらあたりが出ました。線香からのぼった二筋の煙が絡みあうようにして開け放した窓から細く流れ出るのを目で追うと、不意に目の前が明るくなって、向かいの家から「ただいま」と帰宅を告げる声がした。やがてどこからともなく蝉の声が湧く。夏だ。