杉村敏之-雑記

文章ウェブの制作、承り〼。

シジュウイチ

仕事帰りのこと。停留所の列でバスを待っていると、ひどく酒の匂いをさせる男が隣に並んだ。視界の片隅で捉えた男は、覚束ない足もとで体を前後に揺らすほど、したたかに酔っているようである。酩酊した男とこのまま近接してバスを待つことに不安を覚え、手元の携帯電話から顔をあげる。するとこちらと目のあったその男はやおら破顔し話しか…

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そう言えば、渡り廊下。

そう言えば、自分は「渡り廊下」が好きだった。唐突にそう思ったのは、息抜きがてら職場を抜け出した折、海へと向かう道中に渡された県庁舎のそれに注意が向いたからだ。自分の通っていた中学校にも渡り廊下があった。棟違いの音楽室へと向かう際に必ず通るそこは、陽当りがよく、規則的に並んだ左右の窓がいつも開け放たれている気持ちのよ…

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素晴らしい夜だったから、ラブレターを書く。

今宵、かねてより敬愛していたグラフィックデザイナーと食事をする機会に恵まれた。彼の仕事をはじめて知ったのは、四国の松山市が発行していた小冊子だった。4、5年前のことだろうか。自分好みのフリーペーパー蒐集を秘かな愉しみとしていた当時、渋谷の街で手に取ったその冊子から受けるおおらかさに心を奪われ、紙面にクレジットされて…

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盆の入りに合わせる手が引き寄せたのは夏。

仕事を終えて家に帰ると、勝手口脇の作業台に迎え火の支度がしてあった。馬と牛をどちらを焚くか地域によって異なると耳にしたことがあるが、我が家は牛を迎え火に焚く。これは関西で育った母の流儀である。そう言えば朝、最寄りの駅まで向かう道すがら、どうも香の匂いが気になったのは、今日が盆の入りだったからなのだと合点がいった。信心…

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あやふやでいいのかもしれない

仕事でお寺の撮影に立ち会った。そこは実家から歩いて15分ほどの小高い丘にあるこじんまりとした清潔なお寺で、幼い時分に通っていた小学校の近くでもある。撮影はパンフレット制作のための素材蒐集で、忙しなく立ちまわるカメラマンを横目に、朝から夕刻までのまるまる半日、ずいぶんとのんびりさせてもらった。敷地内の墓苑を俯瞰で撮影…

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うなぎ。山吹茶、鳶色。

義父、義母への年末の挨拶に山梨に行った。山梨県石和は、半世紀前に温泉が湧出した比較的新しい温泉街で、最盛時は熱海にも劣らないのほどの賑わいを見せた一大歓楽街だったとか。実際に行ってみるとそこは小さな温泉街といった風情で往時の面影はあまりない。駅からほど近いところに飯屋があり、義母の提案で昼にうなぎを食った。田舎のまず…

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好きなもの。

最近仕事で文章を扱うことが増えて嬉しい。自分で書く以外に人の文章を見るという仕事が増えたのだ。そんななか今日面接をした。ライターを志望する美大生。ぼくが面接を受け持つときには必ず好きなものはありますかと問うことにしている。好きなものはなんでもよい。偏執的なこだわりを持つこと、陶酔できるなにかがあること。好きなものを好き…

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ご献発の味。

週末、静岡県は藤枝に。目的は本郷神社という山間の小さな神社で行われる花火大会だ。今年で2回目の観覧となるが、これがなかなかにいい。鳥居をくぐり、参道を抜けると山を背負い込むようにして広がる比較的大きな円形の広場にぶつかる。広場の奥側には高い櫓が立っていて、その櫓には拡声器を持った男が眼下の見物客を睨め回すように…

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GWのあれやこれ

今年のGWは長い連休を会社からいただけて心身ともに充実の蓄電期間を得ることがかない、夏の盆休みまでの勤労意欲とそれに不可欠となる動力、四肢の先の先までがっつり格納。まずは、地元での飲み会。次に野球観戦。それから拙宅にメンコイ赤ん坊を引き連れ訪ねてきた友人夫妻に風邪をもらって2日間を床の上で無駄に費消し、ちょっと宿題をし…

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ぐらとぐら

本震のぐらと余震のぐら。おっとろしかったね。腰が抜けたね。裸足で事務所のビルを駆けだすと同じ通りに面した近くのビルの壁がホロホロと崩落してて、歩道が瓦礫の山になっていたね。走る車を縫うように往来を横断して目の前の大きな公園へと避難したね。少し落ち着いたところでほっとすると、指の爪がほんの少し欠けるという甚大な深…

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白い風景が口の中でじゃりじゃりいってるぜぃ。

自分が担当している取引先のひとつが千駄ヶ谷にある小学校の真裏にあって、そこへ打ち合わせに出かけるたびにその小学校の前を通りがかるのだけど、つい先日はこの寒空の下で、体操着姿の男女が入り混じってソフトボールの試合をやっていてずいぶんと白熱をしていた。通りのこちら側から背の高い門扉の、格子状の隙間からのぞくようにしばらくそ…

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駆けめぐったあれはきっと殺意だわね。

朝。地下鉄の長い長いエスカレーターで地階へとゆるやかに降下。対向したエスカレーター、地上へとせり上がる女とすれ違う。馬鹿デカなヘッドホン。から漏れるズジャズジャ。肩にかけた鞄。からのぞくグシャグシャ。死んだ左目と右の目。くたびれたパンツスーツ。女、滋養強壮瓶詰め飲料を無表情にあおる。んで、かるくげっ…

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リアルな痛覚とももに最初の一歩をぼくは大きく踏み出すのだよ

どうやら新年が明けたようです。ようです、とまるで他人事のような物言いなのは、ここまで実感を伴わない年明けをかつて迎えたことがないからであって、そもそも一週間まえの大掃除でビカビカに磨き上げたはずの風呂場の天井に一筋の拭き残しを見つけてしまったのが運の尽きっちゅーもんで、全裸で椅子に登ってゴシゴシとその汚れと取っ組み合…

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どんだけだけだけだけだけだけ

勤め帰りに立ち寄った会社近くのコンビニ。レジに見たこともないような長蛇の列ができていて何事かと一瞬戸惑う。客らは自分の番がやってくるとレジ越しの店員にタバコの棚を指さして「それ、あるだけ」と命令したり、「マイセンありったけ」と束になった札を数えたり、「カートン全部もってきて」ってリクエストに奥へとすっ飛んでった店員…

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蝉花火。

最寄りの地下鉄の駅から家までの道中は外灯がまばらである。ゆえに夜も深いとよほど月が明るくないかぎりは暗い夜道を歩くことになる。ぼくが家を目指すその道は比較的大きな公園の外周に沿っている。園内に茂った桜の木々が歩道にはみ出す格好で頭上を覆うように枝葉を差し交わしているため、その道は絶望的に暗い。そのうえ雨上がりや湿…

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あー、くだんね。にしても秋はいいよなー。

秋らしい一日だった。通りに面したガラス越し、仕事場のデスクから臨む公園に身なりのよい爺さんが日だまりとなったベンチに腰掛けている。美しい園内の芝生をさやさやと渡る金風に洗われるようにして目を閉じ、物思いにふけったかと思えば、傍らの新聞に目を近づけてなにやら熱心に紙面を追っている。紙面から顔をあげたかと思えば、足下の…

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食いしばるものがない時俺はなにを食いしばる。

お盆前の一週間ほど、微熱が続き、目の疲れがひどかった。なおかつ頭の中がどろりと重く鈍い痛みがいつまでも離れないという結構深刻な体調不良に悩まされていた。なかでも特にやっかいだったのは頭の症状で、それは熱でとろけてどろどろとしたゼリー状になった脳みそが鼻の奥にぽたぽたと定則に漏れ落ちているような感覚で、なおかつそのゼ…

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ボランティアBBQジオラマタモリ

週末に葛西でBBQをやった。なんでも、ボランティア活動の一環の催しで、不必要になったサムシングを持参するというのがその参加条件であるらしい。参加者から集めたエブリシングをカンボジアのキッズに届けるという企画だそうだ。そんな理由もあって、久しぶりに部屋を物色していたら、いろんなガラクタを思いがけず掘り起こして、けっ…

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螺旋でポン。

地下鉄でのこと。戸袋の脇で本を読んでいたら、耳のすぐ傍らで出し抜けに大きな声でなにかしらの文字列を声高に唱え出した男がいて、本を閉じて目をやった。よくよく見ればこの男、知的な障害を抱えているらしく、一定の節をつけながら、腹から朗朗と声を出し、次のようなことをしきりに繰り返している。ピエール、アンドレイ、マリヤ、ニ…

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はがれ落ちた歯は「わたし」。She is my idol !!

川上未映子「わたくし率イン歯ー、または世界」/講談社先週のこと。すっかりと更けた夜に会社でむしゃむしゃスナック菓子を食べていたら、ごろりとなにかが舌の上で転がって、挟みだした指先にあったるは銀のかぶせもの。折しも、川上未映子の「わたくし率イン歯ー、または世界」という素晴らしい小説本を読み返していたところで…

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1Q84 BOOK3

村上春樹の「1Q84BOOK3」を週末に買った。本屋で発売日に本を買うなんて何年ぶりのことだろう。発売をとても楽しみにしていた。まだ「BOOK3」をまったくと言っていいほど読み進めてはいないけれど、結論から言えばこの「1Q84」はエンタメ小説と割り切って読むと恐ろしくおもしろかった。いやー、もー、まじで、やば…

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壊れた電気スタンドとランプが示唆した狼狽パターン。

続けさまに電化製品や家電が壊れるって巷説は、ほんとうにほんとうで、最近立て続けに自室のスタンドとランプが壊れた。一つはベッド脇に置いてある読書用の電気スタンドで、とにかく明るいのでやたらと首の長い使い勝手の悪さが気にいっていなかったものの長いこと我慢をして使っていた。それを起きしな、けたたましく鳴る携帯のアラームを…

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掲示板の標語の件。

日付も変わって、3月4日。いやーめいてきたね。なにがって、春がさ。いやーめいてきた、めいてきた。すっかり春めいてきたのは結構なことだけど、持病の花粉症の発症で少々ナーバス。でもってあるいはそれ以上に近頃おおいに困っていることがあって今日はその話。というのも、通勤で往来する路に、地域の掲示板めいたものが立って…

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チャリ屋の枯れた爺さんとだぶるもの。

家から最寄りの地下鉄の駅までは通勤路で、かつては通学路でもあった。その路沿いに昔から小さな「三ツ沢サイクリング」というチャリンコ屋があって、子供の時分に愛車のパンクを直してもらったことが幾度かある。簡単な修理みたいなものには、お代を求められたこともなく、子供ながらにどうやってこの爺さんは生計を立てているのだろうかと首…

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しがみつく。

年の瀬に壁時計をプレゼントしてもらった。それまで、自室には携帯電話以外に時計というものがなく、結構不便をしていた。そこでかねてよりの念願だった壁時計を贈ってもらったという次第だ。自宅に持ち帰り、簡易な包装をはがし時計を裸にした。時計のぐるりを囲む木目が美しく、文字盤に控えめな数字が並ぶデザインをぼくは気に入って…

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爪と月。

今日は目を覚ますとすぐに、部屋で爪を切った。ぼくは比較的よく爪を切る。少しでも伸びてくると、普段キーボードを叩く仕事をしているので結構気になるのだ。そして、これはいつもいい気分転換にもなる。切り立ての爪で弾くキーボードの感触はおろしたてのスニーカーで街を歩くのにも似ていて、心が弾む。楽しいな、気持ちいいなと思…

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空から降ってきた星、そして声。

火曜日の夜。ふたご座を放射点にした群れなす流星の活動が活発になるというので、頃合いを見計らった深夜、庭に出た。見上げた空には、思ったよりも電線が多く巡っていて、まるで五線譜のように漆黒の空を切り取っていた。朝からよく冷えた日で、放射冷却のせいか星は常よりもまたたいているように見えて、この空をぼくらが「星」と呼んで…

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雨の下、傘の下、赤いパンプス。

昨夜の冷たい雨。遅い時間、家までの帰途。アーチ型をした高架橋のちょうどてっぺんあたりで傘をさした女が一人立っていた。こちらからだと、ちょうど橋の向こう側で車が停まっているのか、女は地面を這い上ってくるヘッドライトを背負っている格好でその仔細は判然としない。ただ足下は橋のふもとにいるぼくからもよく見えた。朝から…

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メトロの神童。

JRと連絡する駅で2つ隣の席が空くと、戸袋の近くでベビーカーをひいていた若いお母さん、空いた座席の前でベビーカーにストッパーをかけ、回り込むようにしてそのベビーカーと向かい合わせにやれやれといった風情で腰をおろした。ベビーカーにちょこんと座りこちら側に向いたのは、マコちゃんと母親に呼ばれた、可愛らしい顔をした年の頃な…

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路頭の鶏は自由、宮内の鶏は妖しく口中の鶏は憐れ。

◇路頭の鶏◇先日のこと。上野の駅から東京国立博物館までの道すがら、恩賜公園の広場で、年の頃なら40前後、軍鶏のトサカのようなリーゼント頭を一様に激しく揺らし、身にまとったのは革製のジャンバーながら微塵も窮屈さを感じさせることなく生き生きと四肢を伸ばしてツイストを踊り散らしていている集団がいかにもアナーキーでオバカで格…

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あのチャリのミラーを覗き込んでいたら危なかった気がする。

有隣堂本店やかつての松坂屋があった伊勢佐木モールから一本桜木町側に路地を分け入ると、そこは福富町と呼ばれるちょっとした歓楽街で、ソープランドやらカジノやらの呼び込みが四つ辻のそこかしこに立ち、彼ら商売のかき入れ時となる夕方から夜半にかけては賑やかなことこの上ないのであるが、やはり歓楽街といえどもこのご時世、凋落の激しい…

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