杉村敏之-雑記

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うなぎ。山吹茶、鳶色。

義父、義母への年末の挨拶に山梨に行った。
山梨県石和は、半世紀前に温泉が湧出した比較的新しい温泉街で、最盛時は熱海にも劣らないのほどの賑わいを見せた一大歓楽街だったとか。実際に行ってみるとそこは小さな温泉街といった風情で往時の面影はあまりない。駅からほど近いところに飯屋があり、義母の提案で昼にうなぎを食った。田舎のまずいうなぎで、食えたものではなかった。
まだそこまでぼくと打ち解けていない義父は、野良猫を餌付けしていたら、次々に子猫を産むんで困っているとうなぎを口に運びながら頭を掻いた。ぼくは猫はいいですね。昔はもっぱら犬でしたが近頃は猫です、なんて中身のないことを言う。誰もうなぎの感想を口にすることはなく、昼食を早々に切り上げる。
午後はどうするんだ。飯屋を出たところで出し抜けに義父に尋ねられ、なにも考えていないと答えると、じゃあせっかくだからと駅前の足湯に誘われた。よござんす、参りましょう。駅まで戻り、ロータリーに車を駐める。向こうに見える簡素な東屋が足湯らしい。脇にある旅行案内所で人数分のタオルをもらって足湯に臨む。
めいめいにズボンをたくし上げ、脱いだ靴を揃えて、そこに靴下を入れる。ちょぽん。妻はズボンの裾を気にするあまり、上着を湯に濡らす。ちょぽん。義父は湯をぬるいと言って顔をしかめ、薄着の義母はしきりに寒い寒いと言っている。なんだがばらばらだなと様子を見ていたぼくも足湯に爪先を浸す。ちょぽん。思いのほか熱い。波立った湯に浮かぶ山吹茶と鳶色の枯れ葉が派手に揺れる。どちらかがどちらかに重なるようにして張り合うさまをぼんやりと眺めながらどこかで見た景色だと思うが、いつまでも杳として像を結ばない。