杉村敏之-雑記

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食いしばるものがない時俺はなにを食いしばる。

お盆前の一週間ほど、微熱が続き、目の疲れがひどかった。
なおかつ頭の中がどろりと重く鈍い痛みがいつまでも離れないという結構深刻な体調不良に悩まされていた。
なかでも特にやっかいだったのは頭の症状で、それは熱でとろけてどろどろとしたゼリー状になった脳みそが鼻の奥にぽたぽたと定則に漏れ落ちているような感覚で、なおかつそのゼリー状の液体のはける場所がないために重くて不愉快な感覚がずっと一所にとどまっていて、ただただ得体の知れない不快感と言いしれぬ不安感を不気味に思いながら、風邪ではないってことだけは長年つきあってきた自分の体なのでなんとなく分かってはいたりして、騙し騙し悪いなりに体と折り合いをつけつけ勤めに出ていたある朝。
口の中の大きな違和感とともに目が覚めた。
おおよそこういうときには、ぼくは歯に問題があるときで、起き抜けに洗面所の鏡で口の中をのぞくとすぐに合点がいった。
左上の歯茎が大きく腫れあがっていた。
早速日中、予約を入れた歯医者に行ったところ、増殖した細菌が活発に動くと発熱や眼精疲労という症状につながるのだよこのド阿呆と諭された。
結局、問題のあった奥歯を抜いた。
施術が終わり診察台から起き上がると、目の前に彼らが「7番」と呼んだ血だらけの大臼歯が転がっていた。
医者から職場に戻っても歯を引き抜いた口の中からこんこんと湧く血を数分に一回、流しまで吐き捨てに行かねばならずうっとうしい。
あんまりうっとうしいから流しの前に立つたびに、気晴らしで石川啄木風、沖田総司風、果てはグレートカブキ風といろんな血の吐き方にひとり挑戦してみたがぜんぜん気分が乗ってこない。
なんやら頭もぼうっとするし、なによりも奥歯を抜いた喪失感がとほうもない。
そんなときに限って仕事は山積しているものである。
ここはおれ、いっちょ歯を食いしばってもうひと頑張りするっぺかと気合いを入れるも、次の瞬間、って、あー、その食いしばるべき歯を今しがた抜いてもうたんやった。食いしばるものがない時俺はいったいなにを食いしばればいいのだ。あかんではないか。もういやや。やってられへん。
自暴自棄な気分に襲われ妙な大阪言葉が頭のなかでループ、ループ、ループ。んでやっぱり口の中は血へど、血へど、血へど。