杉村敏之-雑記

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メトロの神童。

JRと連絡する駅で2つ隣の席が空くと、戸袋の近くでベビーカーをひいていた若いお母さん、空いた座席の前でベビーカーにストッパーをかけ、回り込むようにしてそのベビーカーと向かい合わせにやれやれといった風情で腰をおろした。
ベビーカーにちょこんと座りこちら側に向いたのは、マコちゃんと母親に呼ばれた、可愛らしい顔をした年の頃なら三つ四つの、眉毛の上でそろえた前髪の下でいかにも利発そうな大きな瞳を輝かす少女で、マコちゃん、そのままベビーカーの中で抱えていたポニーのぬいぐるみとしばらくおとなしく遊んでいたが、やがてそれに飽きたと見えて、落ち着きを失うとぐずりはじめた。
するとお母さん、なかなかに心得たもので、「マコちゃん、お絵かきしよっか?」と言うが早いか娘の返事も聞かずに足下のトートバックから小さなスケッチブックと水性ペンをマコちゃんに手渡した。
母親から大好きなお絵かき道具を一式渡され、すっかりご機嫌のマコちゃん、夢中になってやがて描きあげた絵を母親に見せる。
「ねー見てー。できたのー」
とか無邪気に言って、こちらにクルリと向けた画用紙。
興味が惹かれてその出来を覗き見れば、そこには、母親とぼくの間に座る、マコちゃんから見て母親の右隣に座る、くたびれたおっさんの絵が描かれていて、このマコちゃん、妙に絵心があるらしく、ものの見事に天才ぶりを遺憾なく発揮しちゃって、その「銭ゲバ セクハラ大王」みたいなもんすげーリアルなハゲオヤジの絵を目にして母親は絶句。
怒るのも「大王」に失礼。褒めるのも「大王」に失礼。
進退窮まったお母さん、黙ってマコちゃんから画用紙を取り上げるとそのままゆっくりと目を閉じたのち、気配を消してしばし気絶。