杉村敏之-雑記

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あー、くだんね。にしても秋はいいよなー。

秋らしい一日だった。
通りに面したガラス越し、仕事場のデスクから臨む公園に身なりのよい爺さんが日だまりとなったベンチに腰掛けている。
美しい園内の芝生をさやさやと渡る金風に洗われるようにして目を閉じ、物思いにふけったかと思えば、傍らの新聞に目を近づけてなにやら熱心に紙面を追っている。紙面から顔をあげたかと思えば、足下の数羽の鳩に餌をやり、また目を閉じる。
そんな爺さんの様子を作業の息抜きにぼんやりと眺めていたら束の間、意識が自分をその見知らぬ爺さんの隣に移動させ、三文映画のごとき実にくだらない白日夢に襲われた。
爺さんは伝説の相場師である。
時にお兄さん、なにがくると思うね?
隣のベンチで欠伸ばかりしてしまりのないぼくに出し抜けに聞くと、ぼくはなぜかやたらと慣れ慣れしい調子で、やっぱ天然ゴムがいいと思うよ、天然ってのがなんかよくねー、とか適当なことを言うのだ。
すると爺さん、満足そうににっこりと笑い、似合わないスマートフォンを年季の入った肩掛けの革鞄からやおら取り出し、慣れた手つきでどこぞに電話をいれて、「佐々木か。天然ゴム、全力で」とか言って切った電話をしまい、かわりに今度はゆっくりと食べさしの卵ボーロを鞄から取り出してちょっとずつ口に運び、足下の鳩にもすこしやって、お兄さんもおひとつどうぞと言って、きっちり一粒卵ボーロを掌に落とされたところでパチン、我にかえる。
秋はいいよなー。